2021.4.26

カスタムApp(CustomApp)とは何か(8) 〜業務用アプリを配布しても良い範囲〜

カスタムAppを提供しても良い範囲はどこまでなのでしょうか。

カスタムAppには、MDM連携するライセンス配布と引き換えコードによる配布と2種類があります。

前者はともかく、後者の引き換えコードの場合はコードやURLを配布すれば誰にでもカスタムAppを提供できますから、業務に全く関係のない人に配布しようと思えばできてしまいます。ただ、さすがにAppleがそれを許容する筈もなく、カスタムAppには配布対象制限が設けられています。

そこで本稿では Apple Business Manager の利用規約を読み解き、カスタムAppの配布可能範囲について考察してみたいと思います。

なお本記事の内容は、Apple Buisness Manager Agreement についての弊社解釈を記すものです。必ず自社で利用規約を確認し、法律に詳しい専門家にも確認の上で最終判断を行うようにして下さい。

 

Apple Business Manager 利用規約の入手方法

まず利用規約の入手の仕方をおさえておきましょう。ABMの利用規約は過去分に遡っていつでもPDFを入手できるようになっています。ABMにサインインして、[設定]→[契約情報]→[利用規約] の順にクリックして一覧を表示して下さい。


(過去にABM上で同意した利用規約が全てPDFで入手できる)

一覧の中から Apple Business Manager 利用規約 をクリックするとPDFで入手できます。一覧下にスクロールすると過去に同意した分まで確認できますが、一番上の新しいものだけで十分です。

日本語で書かれていますがPDF後半には英語での原文があります。以下では日本語部分のみを引用しながら解説しますが、原文も併せて確認することが推奨されます。

 

利用規約の1ページ目に結論が書いてある

身も蓋もないのですが、利用規約を読み進めると最初のページいきなりこんな記述が飛び込んできます。

「契約」とは、このApple Business Manager契約を意味します。明確性のために明記すると、
このApple Business Manager契約はApple Device Enrollment Program契約の後継となる契約です。

実は、もう規約上でABMはADEPの後継であると明記されているのですね。よって、配布対象の制限も同じと考えるのが自然です。ADEPでは契約主体企業の従業員や業務委託者にしかアプリを使わせてはいけないのでした。であれば同じ解釈で、カスタムAppの配布可能範囲もまたABM利用主体企業の従業員や業務委託者に限定される筈です。

さすがに「後継です、以上!」の説明しかないわけではありませんので、配布可能範囲について書いている箇所を以下で詳しく見てみたいと思います。

 

利用規約を読み解く

カスタムAppの配布可能範囲に言及があるのは「2.6 コンテンツの購入」です。

本サービスではコンテンツの取得が自動的に無効化され、お客様による利用には、
アプリケーションとブックを利用する前に本サービスにおいて提示されるVolume Contentの利用に関する要件
および諸条件が適用されます。

お客様は、お客様の管理者に購入権限を付与し、Appleの Volume Purchaseの諸条件へのアクセスを許可して、
本サービスの一環として利用および管理のためのコンテンツを購入できるようにすることにより、
当該管理者が本サービスを介してコンテンツにアクセスできるようにすることを選択できます。

お客様は、こうした購入および適用される諸条件の遵守について単独で責任を負います。
お客様が本サービスの一環としてコンテンツを購入する場合、
お客様は、お客様がお客様の正規ユーザーに代わってそうした諸条件を受諾する権限を有していること、
およびそうした条件を受諾することに同意するものとします。

ここでいうお客様はABMの利用者のことですが、最後の一文に「正規ユーザーに代わって諸条件を受諾する」とあります。ABMでは情シス等の部門担当者が、従業員ユーザの代わりにカスタムAppを一括購入して配布することになるため、このような書き方になっています。

ということは、代わられることになる「正規ユーザー」が、コンテンツ(つまりアプリ)を配布する対象を示していると言えそうです。では「正規ユーザー」とは誰でしょうか。利用規約のp.2には以下のように定義されています。

「正規ユーザー」とは、お客様の会社もしくは組織の従業員および外部契約者(もしくはサービスプロバイダ)、
またはお客様の認可事業体の従業員および外部契約者を意味し、
お客様が病院である場合、「正規ユーザー」の用語には認定医、紹介元となる医師および臨床医も含まれます。

正規ユーザーとは、まず従業員か外部契約者とあります。これにより、

  • 企業が雇用する正社員・非正規社員
  • 企業が雇用するアルバイト
  • 企業が業務委託する個人事業主

などが含まれることになると解釈できるでしょう。組合系組織や合同会社の場合は雇用という関係性が無い場合がありますが、その場合は組織の構成員や所属する人員まで解釈を拡大しても問題ないでしょう。いずれにしてもABM利用企業の「身内」に限定されるというわけです。

NGケースとなる例をあげると、ある製品の販売支援アプリを製品開発企業が開発し自社のABMを介してカスタムAppとして販売代理企業のスタッフに使って貰う….といったケースでしょう。販売代理企業の従業員は、製品開発企業の「正規ユーザー」に含まるとは考えにくく、ADEPと同様にNGと考えるのが妥当です。(参考 → ADEPの契約ができないパターン集)

ただ、「正規ユーザー」に「認可事業体の従業員および外部契約者」も含まれるという定義は、カスタムAppの配布可能範囲を広げる可能性があります。「認可事業体」とは何でしょうか。同じく利用規約のp.2に定義されており、

「認可事業体」とは、(a)お客様が⾃動⾞メーカーである場合は、お客様の正規ディーラーお
よび認定サービスパートナーのことを、(b)お客様がホテルの持株会社である場合は、お客様
の名称、商標、もしくはブランド(またはその持株会社が所有もしくは管理している名称、商
標、もしくはブランド)の下で運営されているホテル資産のことを、または(c)Appleがその単
独の裁量により書⾯で承認することのあるその他の類似する事業体を意味します。

とされています。

(a)(b)はまさに販売代理店的な位置づけとして期待されるものですね。ただ自動車業界とホテル業界についてのみ明示的に許容されているだけであり、残念ながら該当しない事業の場合は (c) 該当となるようAppleの承認を求める必要があります。

実はこの(a)〜(c)も最新のADEP契約書と同じ記載なのですが、開発するカスタムAppが自動車業界とホテル業界に関係する場合は、カスタムAppの配布可能範囲を広範囲に解釈できる可能性があります。

 

以上、カスタムAppの配布可能範囲について解説しました。

原則は ADEP と同じであり、ABM利用主体の企業の従業員や業務委託者にしか使わせてはいけないということです。カスタムAppの多くはMDM連携して管理デバイスに配布されますから、おのずから従業員や業務委託者以外には配布されにくくなっていますが、引き換えコードを使って配布する場合には注意が必要でしょう。

なお冒頭の繰り返しになりますが、ご紹介した解釈はあくまで弊社による解釈ですので、各エンドユーザ企業におかれてはABM利用規約の英語原文も確認のうえで最終判断されるのが良いでしょう。

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