2021.6.21
WWDC2021に見えた人種差別に対するAppleの変わらぬ姿勢
エンタープライズiOSと人種差別には一見何の関係も無さそうです。が、WWDC2021のエンタープライズ関連セッションにAppleの変わらないスタンスが表れていましたので紹介します。
人種差別に対するAppleの姿勢
Appleは元より多様性を尊重し、イノベーションの源泉であるとして専用サイトまで用意して自社の取り組みを公表しています。公開当初は少し話題にもなったので知ってる方も多いと思います。
このレポートはAppleの姿勢の片鱗ですが 、古くから、そして今もなお人種差別に「否」を示し続けています。昨年のWWDC2020キーノートでは、米国で拡大するBLM運動(Black Lives Matter:人種差別抗議運動)について言及されました。
さらに Apple はWWDC2020の直後に Updates to coding terminology というリリースを出し、inclusive(不平等/不公平)な表現を排除し置き換えていくことを宣言します。
これはBLM運動の広がりがIT業界にコーディングやドキュメント用語の置き換えとして広く影響を与えていたことに Apple も呼応したものです。
- GitHub、「マスター」「スレーブ」などの用語を見直し–人種差別撤廃に賛同
- Linuxでも「ブラックリスト」「スレーブ」などの用語を変更へ
- Twitter、コードやドキュメント内の用語「Whitelist/Blacklist」「Master/Slave」「Dummy value」などを好ましい用語へ置き換え、具体例も発表
- blacklist/whitelist master/slave に関する情報集め
Appleはリリースのとおり、2020年7月時点でドキュメント類やUIの表記ガイドラインである Apple Style Guide 中の blacklist / whitelist という表現をなくしました。他にもswift言語のリポジトリには black や slave といった表現が同年早々に削除されたコミットログも残っています。
WWDC2021のセッションに見えた変わらぬ姿勢
さて1年経ったWWDC2021。Appleの姿勢は変わっていないということが、キーノートでも技術セッションでも示されました。WWDC2021キーノートでは黒人開発者や女性開発者向けプログラムについて紹介されました。
そして上述の Updates to coding terminology 宣言はいよいよ実装面にも及びます。以下は、WWDC2021のエンタープライズ向けセッション What’s new in managing Apple devices での1枚のスライドです。ことの大きさが想像できるでしょうか。
このスライド表現は、構成プロファイルやMDMのアップデートでAppleがよく使うものです。今回のセッションでは新しいペイロードの追加等に加えて、Inclusive(不平等/不公平)な表現をなくすための仕様変更をすることが示されました。
現状の構成プロファイル仕様を一部紹介します。例えば、監視モードの端末で標準アプリを削除する構成プロファイルを作れば plist は以下のようになります。
WiFiでの接続先SSIDを指定したものだけに限定する構成プロファイルではこうなります。
blacklist / whitelist という言葉が使われていますね。該当する設定を含む構成プロファイルが手元にある方は、是非テキストエディタで中身を見てみて下さい。
紹介したものは現状使われている inclusive な表現の一部です。興味のある方はAppleの公式ドキュメント Configuration Profile Reference で blacklist / whitelist をキーワードに検索をかけてみると良いでしょう。かなりの数の black/white の表記が見つかります。
これら構成プロファイルの設定キー名称も全て denylist / allowlist といった non-inclusive な表現に変わります(当面は共存すると思われる)。興味深いのは、この仕様変更の影響範囲が決して小さくないことです。
- 構成プロファイルを解釈するiOS/iPadOS (Apple内)
- 構成プロファイルを作成・解釈するApple Configurator2 や macOS server の実装 (Apple内)
- 構成プロファイルを作成するMDMサービス (Apple外。全世界数十社の全MDMベンダー)
- 構成プロファイルのXML(plist)を作成する独自のスクリプトやツール (開発会社やSIer)
- 構成プロファイルを扱うオープンソースなプロダクト (オープンソースコミュニティ)
Appleは、これらの決して小さくない影響範囲を承知の上で変更するということです。通常、実装にかかわる仕様のキーワードは一度決めたら余程のことが無い限り変えないものです。その変更には機能的な向上はなく、やろうがやるまいが動作は変わらないからです。
その意味でAppleは徹底しています。運動に迎合した形だけの姿勢ではないAppleの本気が表れていると筆者は感じました。これらの変更はiOS15がリリースされる時期から各関連プロダクトに反映されていくことになるでしょう。
以上、人種差別抗議運動の広がりがエンタープライズiOSの世界にも影響を与えているということを紹介しました。