2021.8.16

SDE, ADP, DEP, ABM, ADE…名称がコロコロ変わる端末登録の歴史

エンタープライズiOSが難しく感じられる理由の一つに、新しい用語が現れては消えていくAppleの気まぐれ(?)があります。それが最も顕著に現れているのが、端末の登録(device enrollment)に関する用語でしょう。

そこで本稿では、業務用iOS端末の登録(device enrollment)に関連してAppleが使ってきた用語を時間軸で整理します。端末登録(device enrollment)の用語の歴史を知って頂くことが、複雑なエンタープライズiOSを理解する一助になればと思います。

 

SDE(Streamlined Device Enrollment)

iOSがMDMに対応したのは2010年のiOS4のとき。MDM対応をうけてiOS端末の業務活用が急加速すると、MDMのチェックインや監視モードにする手間が問題視されるようになりました。

エンタープライズ強化を図っていたAppleは、これを受け満を持してWWDC2013のセッション Managing Apple Devices で端末登録(device enrollment)という概念を新たに発表します。


(同セッションでの「たったこれだけです」というAppleエンジニアからの説明に拍手が起こる。41:29)

同セッションではアプリのサイレントインストールやVPPの仕組みも発表されてますので、2014年は2010年のMDM対応に続くエンタープライズiOS転換点と言えるでしょう。この発表当初は、Streamlined という言葉が使われていました。無駄のない簡素化された端末登録…といったところでしょうか。


(MDM支配下から逃れられなくなることが特に歓迎された)

このセッション中に何度も何度も聴衆から拍手が起こっているのが印象的です。SDEはそれだけエンタープライズiOS界隈で待望だったのですね。

ただ発表当初、SDEが可能なのは米国のみで且つ Apple から端末購入した場合に限られていました。

 

DEP(Device Enrollment Program) と ADP (Apple Deployment Programs)

翌年、進展があります。

2014年、Streamlined Device Enrollment の仕組みの米国以外への提供、及びApple直販以外の購入(公式リセラーやキャリア経由)でもSDEが可能になるのにあわせて、名称が Device Enrollment Program に変わります。

同時に、「配備」という観点で、アプリ一括購入機能の VPP (Volume Purchase Program) もひとくくりにしてしまって、 Appleは ADP(Apple Deployment Programs) という名称を使うようになりました。(参考 : VPP・アプリ一括購入とは何か)


(Device Enrollment と Volume Purchase の制度という体でひとくくりにされているのが分かる)

エンタープライズ向けのデバイスとアプリの特別な仕組みを「配備プログラム郡(Deployment Programs)」としてまとめたかったAppleの意図を感じることができます。

 

ABM(Apple Business Manager) の登場

DEPとVPPをADPとして提供していたAppleは、2018年末にADPの後継として Apple Business Manager (ABM) の提供を開始します。(2018年4月には米国企業向けにベータ版は提供開始していた。詳しくはABMとは何かを参照)

ADP(Apple Deployment Programs)のDEP(Device Enrollment Program)を使用していた企業には、ABMにアップグレードを促しはじめます。


(2021年8月現在でもADPでググってたどり着く公式ページはアップグレード誘導ページ)

このアップグレードには、

  • DEPとVPPがADPで統合されたように見せかけて実は管理画面のUX/UIは統一されていなかった
  • 端末やアプリだけでなくAppleIDの管理も求められるようになってきた

といった事情から、Programのかき集め(Programs)ではなく、Appleが提供する業務用リソースを一括管理できる統合環境という建て付けが必要だった背景があると思われます。

また別の側面もあります。

2015年、Appleは開発者向けプログラムである iOS Developer Program にiOS以外も統合して名称を Apple Developer Program に変えました(参考 : iDEPではなくADEP)。これによって、Apple Deployment Programs (ADP) と Apple Developer Program (ADP) という2つのADPが存在することになってしまいます。

Development(開発)とDeployment(配備)の両方に関わっていた弊社のようなベンダーは大いに困惑したものです。この略称の競合を解消するため、Apple Deployment Programs の名称や位置づけを変えたいという意図もあったでしょう。

 

ADE(Automated Device Enrollment)

2018年のABMの登場後、AppleはDEPという用語を使うことを避けているようにも見えます。後継である筈のABM内ですら使われていませんし、Appleの公式ドキュメントでも見なくなりました。

そうこうしてるうちに、2020年のWWDCの What’s new in managing Apple devices というセッションで初めて、Automated Device Enrollment (ADE) という新しい用語が現れました。


(WWDC2020のセッション資料)

セッションで解説される内容はDEPそのものでしたので、WWDC2020以降は各MDMベンダーが Automated Device Enrollment という言葉を積極的に使うようになります。Appleの公式ドキュメントでも見られるようになりました。

Automated Device Enrollment は、元々の名称 Streamline Device Enrollment に一旦原点回帰して、より分かり易くした表現とも言えるでしょう。自動で(Automated)、デバイスを(Device)、登録する(Enrollment)ための機能ですから。

ただ筆者感覚ですが、2021年8月現在、ADE という言い方はまだそれほど広がっていないように思います。MDMベンダーが無理して使っている感じでしょうか。DEP端末とかDEP化とかDEPを前提とした表現が既に浸透してしまっていますから、ADEという表現が広がりきるのは結構時間がかかりそう…という見立てをしています。何だか iDEP が ADEP へと名称を変えても多くの人が iDEP と言い続けていたのと似ていますね。

 

ということで、本稿では端末登録をめぐるキーワード変遷の歴史を見てきました。一連のキーワードを簡潔に数式のように書くとこうなります。

  • SDE = DEP = ADE
  • ADP = VPP + DEP (だった)
  • ABM = ADE + 一括購入 + Managed Apple ID

太字部分が端末登録関係でおさえておいたほうが良いキーワードとなります。当サイトでは、ADEではなくまだDEPという表現をあえて使ってますが、ADEという言葉が浸透するまでこのままでいこうと思っています。

なお、DEPについては以下のような投稿もあります。併せてご覧下さい。

 

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