2022.2.7
非表示App(Unlisted App)とは何か
2022年1月31日に、アプリ公開の方法として新たに非表示App(Unlisted App)が追加されました。本稿では、Appleの公式ドキュメントや申請フォームの情報を元に、非表示App(Unlisted App)について解説します。
結論を先に書くと、アプリ配信の選択肢が1つ増えました。今後アプリの配信方法は以下の4つから選ぶことになります。
No. | アプリ配信方法 | 配布・インストール方法 | 必要なもの | 用途 |
---|---|---|---|---|
(A) | 公開App | AppStoreのお勧めや検索、ランキング、URL直指定 | ADP | 一般ユーザに広く公開する(してもよい)アプリ |
(B) | 非公開App | カスタムApp | ADP, 利用企業側 ABM + MDM | 特定企業が使う公開したくない業務用アプリ |
(C) | InHouse | ADEP, MDM(AC2) | 特定企業が使う公開したくない業務用アプリ | |
(D) | 非表示App | AppStoreのURL直指定のみ | ADP | (A)-(C)では対応できない例外的なケース |
今回追加された非表示App(D)は、公開App(A)と非公開App((B)または(C))を足して2で割った、かゆいところに手が届く特別な配信方式です。ただ開発者が自由に設定できるものではなくAppleの審査があります。また、非公開にしたい企業向けアプリは(B)(C)のいずれか、という点は従来と何ら変わりません。
以下、詳しく見ていきましょう。
非表示Appの概要
早速公開されたAppleの日本語ドキュメントによると
以下のような記述があります。
開発中のAppが一般配信に適していない場合は、App Storeで非表示Appとしてリリースし、ダイレクトリンク経由に限定して、ユーザーに見つけてもらうことができます。非表示Appは、App Storeのカテゴリ、おすすめ、ランキング、検索結果、その他のリストのいずれにも表示されません。
非表示アプリは、AppStore上に公開されるが、URL直リンク以外ではそのアプリにたどり着けないようにしたものです。URLを知っている人だけがインストールできる状態になりますが、URLを知ってさえいれば誰でもインストールできるという点が注意事項です。
YouTubeで動画を公開するときの限定公開と同じです。検索結果や関連動画には現れませんがURLを知っている人だけが見れる動画。そのアプリ版です。非表示Appは、限定公開Appと言い換えても良いのかも知れません。
一部の業務用アプリやイベント参加者向けに提供するアプリ等で活用できるでしょう。
非表示Appにするには、特別に用意されたフォームから申請が必要になります。β版やテスト用途では使えません。既に公開されているAppStore上のアプリや、通常のAppStore公開アプリとして審査提出前状態のアプリのみが対象です。
では今後、業務用アプリは非表示Appで良い?
いいえ。
非表示Appは非公開App ではないことに注意して下さい。AppStoreで公開されるアプリにたどり着く方法を直リンクに限るだけの話です。直リンクURLが広く知られたら、AppStoreで公開するのとさほど変わらない状態になります。
Appleは公式ドキュメントで
Unlisted Appは、リンクを持っているユーザーなら誰でも利用できます。そのため、不正使用を防止するための仕組みをAppに実装することを検討してください。
と注意を促しています。そもそも存在を知られたく無いような非公開状態を期待するアプリは、やはり
- ADEPによるInHouseアプリ
- カスタムApp
のいずれかを選択することになります。前者のInHouseアプリの手段が使える企業は限られていますので、非公開状態を望む場合は、ほぼすべての企業が後者カスタムApp配信をすることになります。非公開Appの配布方法は、従来と何ら変わらないわけです。
URL漏洩や不正利用に注意すれば、業務用アプリは非表示Appでも良い?
いいえ。
非公開App のカスタムAppは、MDMやABMの導入と運用が前提で、加えてVPPの理解も必要ですからかなり複雑になります。色々新しいことを調べるよりも、今までのよく知ったAppStore向け公開アプリの開発や申請フローで進めて、最後に非表示App申請するほうが楽そうだ…と思えなくもありません。
ですが、非表示Appは開発者の意思で自由に設定できるわけではないため、そう簡単ではなさそうです。Appleに申請し、非表示App化を認めて貰わなくてはなりません。その申請フォームに気になる項目があります。
Why do you prefer to distribute this app unlisted on the App Store instead of privately to specific organizations on Apple Business Manager or Apple School Manager?
「ABMを使わずに非表示Appにしたい理由はなんですか?」と説明を求められます。ABMをなぜ使わないのか。さすがに「面倒だから」とか「ABMはよく分からないから」と書いて申請しても認めて貰えないでしょう。
またフォームの末尾には「これらを理解しています」と自己宣言するチェックボックスがあり、幾つか並ぶ項目の1つにこんなものがあります。
• Because the app will be accessible by anyone with the link, unlisted distribution is not private. If you need private app distribution, consider offering a custom appon Apple Business Manager or Apple School Manager.
非公開アプリはカスタムAppとABMの利用を検討して下さいと明記されています。ここからも、ABMやカスタムAppやMDMの検討をすっ飛ばして「とりあえず非表示Appの申請をすりゃ良いや」とはならなさそうなことが分かりますね。
その他、非表示Appの申請フォームには結構な数の回答項目があります。全て素直に回答すると「いぁそれはABMとカスタムAppでやれるでしょ」と Apple がツッコミを入れやすいよう誘導しているかのような設問で、ADEPを取らせないようにするAppleの姿勢に似たものを感じます。
では、どんなときに非表示App申請が適切になるのでしょうか。
非表示Appの審査が適切なケース
既存の配布方法ではカバーできない用途です。つまり、
- AppStoreで広く公にする必要がないアプリで、
- ABM + カスタムApp での非公開Appが適切ではない or 難しいアプリ
になるでしょう。具体的には以下のようなアプリが該当します。
- イベントやカンファレンスの参加者専用アプリ
- 雇用関係にはないが一時的に組織外の人物に使わせる業務用アプリ
- あるメーカ製品を営業するための販売代理店使用を前提とするアプリ
- 海外を含む全グループ子会社に提供する従業員専用アプリ
いずれも、限定的なユーザに使わせたいアプリで、かつ、ABM + カスタムApp の配布可能範囲の制約が障壁になるケースです。
こうした例では従来、カスタムAppをインストールした端末を貸与する形をとったり、全関係企業でABMが必要になったり、カスタムAppを引き換えコード付きで入手して配布したりしていました。非表示Appは、これらの運用が複雑になるパターンを救済する仕組みと捉えるべきです。
ですので今後、業務用アプリを新たに開発する場合は、
- STEP1 : ABM + カスタムApp での非公開のApp開発・配布を検討する
- STEP2 : カスタムApp のライセンス的に現実的でないなら非表示Appを申請する
で進めるのが順当でしょう。以下のカスタムApp関連の投稿が参考になりますので併せてご覧下さい。
以上、2022年1月に発表された非表示App(Unlisted App)について解説しました。