2022.11.14
ADEPからADPに移行する時に知っておくと良い10個の豆知識
2022年はADEP更新ができなくなる可能性もありましたが、意外に更新できている例もあるようです。
ただやっぱりこの先は分からないということで、予め備えておきたいと考える企業様に、InHouseからカスタムAppへの移行について質問を頂くことが増えてきました。
開発会社視点で真っ先に気になるのはADEPに代わって使うことになるADPです。そこで本稿では、ADEPの理解がある方々向けにADPの豆知識を幾つかご紹介します。以下一覧です。
- App Store には公開領域と非公開領域がある
- ADEP契約済み企業でもADPは新規契約が必要
- ADEPとADPは排他的ではなく法人として両契約可能
- 作成できる配布用証明書の数がADEPより1つ多い
- 配布用証明書の有効期間が異なる
- 証明書の期限が切れたりrevokeしてもアプリは起動し続ける
- ADPの契約が切れるとAppStoreからアプリが消える
- ADPの更新には審査がない
- カスタムAppの審査はそれほど難しくない
- 無審査でのアプリ配布が全くできなくなるわけではない
1つ1つはちょっとしたことですが、あらかじめ知っておくと知識ゼロで始めるよりずっと良いカスタムApp移行を行うことができます。
1. App Store には公開領域と非公開領域がある
カスタムAppとは実はAppStoreアプリです。「え?AppStoreって公開されるのでは?」と思った方はこれを機会に是非、認識を改めて下さい。
AppStoreには企業内用途の非公開アプリのために非公開領域が存在する
のです。実は2010年頃からそうです。最近になって整備されたのではなく、昔からあったのです。ただADEPが便利すぎて単に使われていなかっただけに過ぎません。昔はCustomB2Bと呼ばれていました。
InHouseアプリからカスタムApp化するとは、つまりAppStoreアプリにするということであり、ゆえにADPの契約が必要になるとうわけです。
2. ADEP契約済み企業でもADPは新規契約が必要
ADPは新たに契約する必要があります。
ADEPの契約がADPの契約に切り替わるわけではない点に注意して下さい。また、いわゆるSaaSサービスの契約プランではないため、ADEPからADPにプランを落とすといった関係性のものでもありません。
ADEPとADPは名前は似てますが全く別物の扱いですので、たとえADEP契約済みであってもADPは新規に契約することになります。
Appleが気を利かせてADP契約も手配してくれるとか、Appleの認定リセラー企業が契約代行してくれるといった事もありません。自社が主体となって新たに契約手続きを行います。
3. ADEPとADPは排他的ではなく法人として両契約可能
ADEPとADPはそれぞれ全く別の契約で、かつ独立しています。
従って、ADEP契約期間中でもADP契約が可能です。また、ADPを契約するとADEP契約が解除されてしまうといったこともありません。
4. 作成できる配布用証明書の数がADEPより1つ多い
ADEPでの配布用証明書(InHouseアプリの署名に必要な証明書)は、最大2つでした。2つ作成済みの状態で新規作成しようとすると以下のように選択できません。
一方、ADPでは配布用証明書(AppStore申請用アプリの署名に必要な証明書)は、最大3つまで作成することができます。Appleの公式ドキュメントにも記載がありますので確認してみて下さい。
複数の秘密鍵や証明書に分けて管理してきた企業の場合、ADPでは運用の柔軟性が向上するでしょう。
5. 配布用証明書の有効期間が異なる
配布用証明書の有効期間は、ADEPが3年間で、ADPで1年間です。
配布用証明書が使える用途も異なります。ADEPでは InHouse と AdHoc に使用でき、ADPでは AppStore と AdHoc に使用できます。当然ながら ADP の配布用証明書を InHouse 用途に使うことはできません。
6. 証明書の期限が切れたりrevokeしてもアプリは起動し続ける
InHouseアプリでは、証明書期限が切れたり証明書をrevokeするとアプリが起動しなくなりますが、ADPによるAppStoreアプリでは、証明書期限が切れてもrevokeされても起動し続けます。
AppStore申請用の証明書で署名し申請通過したアプリは、一度端末にインストールされたなら証明書の期限や有効性に関係なく起動し続けることができるのです。
審査通過後に証明書のことを気にしなくてよくなるのは、ADEPからADPに移行するメリットです。オペレーションミスでアプリが起動しなくなるといった惨劇も避けられます。(証明書の状態に関係なく起動可能な理由は解説すると長くなるので省略します)
7. ADPの契約が切れるとAppStoreからアプリが消える
ADPの契約更新を忘れると、ADP契約期間終了日以降、ユーザはアプリをダウンロードすることができなくなります。(起動できなくなるのではない)
ABM で一括購入してMDM経由で配信される監理対象ライセンスでも、ABMから取得する引き換えコードでも同じです。アプリの存在がないものとみなされると考えて下さい。
しかし、ADP契約を更新すると再びダウンロードできる状態に戻すことができます(ただし1年以内)。カスタムAppに移行したらADP契約更新に細心の注意をはらいましょう。
端末にインストール済みのアプリは、たとえADP契約が期間終了しても起動し続けることが可能です。詳しくは公式情報を確認して下さい。
8. ADPの更新には審査がない
別の投稿で紹介した通り、2022年春以降、大半の企業ではADEP更新にAppleの審査が必要となりました。一方、ADPの更新に審査は不要です。これは昔も今も変わりません。
9. カスタムAppの審査はそれほど難しくない
iOSアプリ黎明期、AppStore審査は厳しく理不尽なことがままありました。審査拒否された理由を共有する投稿サイトまであったぐらいです。(参考。約14年前の紹介記事)
その頃の「審査は厳しい」という噂情報のまま、今でもAppStoreの審査はとても難しいと誤解している方が多くおられます。未体験であれば仕方がないことです。分からないことは、普通怖いものですから。
ただ知れば怖くなくなります。審査基準を知るために App Store Review ガイドラインを関係者全員で事前に一読しておくと良いでしょう。可能なら英語で読むことが推奨されます。
審査基準はアプリ黎明期に比べるとかなり明瞭で、従っていさえすれば、理不尽なreject(審査で落ちること)を食らうことは余りありません。また、TestFlight の外部テストを使えば、事前に審査の感触を掴むことも可能です。
10. 無審査でのアプリ配布が全くできなくなるわけではない
無審査配布の一形態であるAdHocをADPでも使うことができます。ADEPでのAdHocと条件は同じで、
- 事前登録済みUDIDの端末のみで起動可能
- 登録可能なUDIDの数はiPhone/iPad/AppleTV/AppleWatchで各100台
となります。
これまで ADEPの InHouse アプリだけを使ってきたという場合、AdHocという配布手段を知らない方もおられるでしょう。実は、無審査配布には InHouse と AdHoc の2種類があります。前者はADEPでしか使えませんが、後者はADEP/ADPの両方で使えます。
上記の条件が許容できるのなら、AdHoc配布も検討する価値があります。また、ADEPのInHouseアプリを社内テスト用の配布にしか使っていないのなら、TestFlightの内部テストに移行できます。ADPに移行したからといって、全てのアプリで常にAppleの審査が必要になるというわけではないのです。
以上、ADEPからADPに移行する方に向けてADPの豆知識を紹介してみました。ADPへの移行の際に参考にして下さい。