2022.11.28
AdHoc配布はテスト用途以外に使用できるのか
Appleの審査を受けずにアプリを配布する方法として AdHoc という方法があります。
配布可能な端末数に上限があり、しかも対象端末のUDIDを事前に調べる必要があって非常に面倒ですが、iOSアプリ黎明期(2010年頃まで)には関係者にテストして貰う手段としてよく活用されました。
それが理由かどうか分かりませんが、時折、AdHocはテスト目的の配布に限られると理解されていることがある印象です。本稿では、実際のところどうなのか、契約書やAppleの公式ページから読み解いてみたいと思います。
契約書ではどのように記されているのか
ADPもADEPも Apple Developer 内の専用ページに使用許諾契約が公開されています。
プログラム使用許諾契約の欄の一番上がADPの契約書です。契約を確認する(英語)のリンクから原文PDFをダウンロードすることができます。2022年12月現在、2022年6月のWWDCの時期に更新されたバージョンが最新となっています。
このPDFを「Ad Hoc」で検索すると5件ほどヒットします。言及されているのは以下のページ。原文PDFを見ながらご覧下さい。
ページ数 | AdHoc配布に関する言及 |
---|---|
10 | AdHoc配布可能な上限を定める権限をAppleが留保しているという記載 |
16 | 禁止事項の1つとしてAdHoc配布を阻害することをあげている。またAdHoc配布がiOSアプリ配布の一形式であることに言及 |
17 | AdHoc配布を含む全配布形式で配布されるアプリが3.3条を満たすことを求めている。3.3条ではUIのあり方や、各SDKの使い方について細かくルールが記されている |
39 | AdHoc配布についての独立した項。だが、配布可能範囲についてのみ規定 |
41 | 本契約書に記載されたAdHocを含む配布方法以外は、原則認められないことを説明(つまり、サイドローディングの禁止) |
できることなら原文(英語)を読むべきですが、日本語版も用意されていますので読み解く参考にすると良いでしょう。日本語ではAdHocが「特別配布」と訳されています。
契約書を実際に読むと分かりますが、実はどこにもAdHoc配布がテストに限定されるべきという主旨の記述はありません。どちらかというと、テスト用途の配布についてはTestFlightが受け持つ記述になっています。
Appleはどんな場合に使えると言っているのか
業務用アプリの配布形式について Apple の考え方を知るのに役立つのが ADEP の公式ページです。このページの末尾で、アプリのタイプ毎に、どんな配信方法が使用できるのか教えてくれます。
業務用アプリには、このように3つの選択肢が用意されていますが、それぞれどんなことが書いているか見てみましょう。AdHocについての言及はあるでしょうか。
一般向けのApp
一般消費者向けアプリとして公開することを目指す場合。こんなふうに記述されています。
AdHoc配信が採用できることが分かりますね。テスト用途であることの注意書きもありません。
特定の顧客むけのカスタムApp
いわゆる自社アプリのカスタマイズバージョンを他社に提供する場合です。
ここにもAdHoc配信が使えるという記述があり、テスト用途の縛りを感じさせる記述は見られません
自分の組織内で使用する独自App
ADEPのInHouseアプリが担ってきた位置づけのアプリです。
ここでもAdHoc配信が使えると書かれています。前後の文章を見てもやはりテスト用途に限るものでもなさそうです。
結論
AdHoc配布がテスト用途以外でも使えるのかどうか、契約書やAppleのサイトの情報を紹介しましたが、どのように結論づけることができるでしょうか。
現時点での弊社見解ですが、Appleとの契約書に用途を限定した記載が明記されていないため、またADEPに変わる配信手段を案内するページにも特段用途制約の記述が見られないため、AdHoc配布をテスト用途に限る必要はなく、その不便(UDID登録済み端末に限り100台上限)を許容できるなら、Appleの審査を避けることのできるアプリ配布手段として採用できると言って良さそうです。
この見解を踏まえてですが、ADP契約をしている弊社顧客の中には、
- 100台に満たない規模で使用する業務用アプリを AdHoc 配布で運用
- 数百台規模に配布する業務アプリはカスタムApp配信で運用
というあわせ技を採用頂いている企業様もいらっしゃいます。ADEPを持たない企業が「全業務アプリをAppleの審査にかけなければならない…」わけではなく、制約はあるものの審査なしの非公開配布ができるということですね。
以上、AdHoc配布するアプリの用途について紹介しました。ただ繰り返しますが弊社見解ですので、AdHoc配布を利用される各社におかれては、念の為に契約書を法務部門にて精査をされることをお勧めします。
また、社外の端末・ユーザにAdHoc配布しても良いのかどうかは、用途とは別次元の問題になってきますので注意して下さい。これについては次の投稿で解説したいと思います。